「楽団アブアブア」&ミュージカルチームLOVE

天使のハーモニー

Written by Eri Misaki
Translated by Rie Ono

 ダウン症と自閉症の障害を持つ人達で構成されたあぶあぶあバンドとミュージカル チーム「LOVE」の一日公演が、5月6日ニューヨークで行われた。1000人収容のトライベッカ・パフォーミング・アーツセンターはほぼ満員となり、観客の約5割はアメリカ人であった。

 まず、あぶあぶあバンドのメンバーと一緒に現われた主催者の東野洋子が英語で挨 拶、そしてメンバーを一人一人 紹介した。パーカッションの浜田滋弥、ドラムの郡司滋、マリンバの細越一男、ピア ノの有本敏之、キーボードの有 原香代の5人がいずれも驚いたことに英語と日本語で挨拶。そしていよいよ演奏が始 まった。

 敏之がピアノの前に座ると、びっくりする程美しい曲が流れ出し、そしてマリンバ の一男が元気なかけ声でリズム を取って最初の曲“あぶあぶあからの風”の演奏が始まった。20年近くこのバンドの 作曲を受け持ってきた水本誠( ピアノ)、ギターの東野雅夫、ベースの室谷智行が応援伴奏、そしてボーカルの水本 英美が、メンバーの影にそっと 隠れる様にして支えている。観客席の両親と一緒に来ていた障害児が、音楽が始まる と同時に大喜びで一緒に手を打 ち始めた。二曲目からジュニアプレイヤーの永原憲治(アクションリズム)が加わっ た。音楽を聞くだけで和やかな 気持ちになり、不思議な感動が沸き上がる。

 会場が一旦暗くなると、舞台中央に吊られた大きな白い幕に、映像が照射された。 一男が高校二年の頃、つまりバ ンドが始まったばかりの頃の練習風景だ。「南回帰線」にチャレンジする一男と東 野。短いフレーズがなかなか覚え られない一男は、必死に教える東野の肩に「すみません」とうなだれる。そんな彼を 励まし、何度も何度も繰り返し て、今度は敏之と合同練習。ここでも同様の努力が繰り返される。苦心さんたんの 末、遂にメロディーが流れ、一男 の顔に自信が浮かぶと、会場から大きな拍手が湧いた。ビデオで見るとほんの数分だ が、これだけに一年を要したと いう。

 実際、日本で18年間、130回以上もコンサートをしている彼等は、もういっぱしの ミュージシャンであり、エンタ ーテナーだ。自信を持ち、キャラクターを発揮して観客を笑わせると同時に、自分の 役割はちゃんと果たしている。 「Tの2楽章」は敏之の、「香代の想い」はキーボードの香代のソロでそれぞれしっか り披露する。いずれも水本の作 曲だが、何とも言われぬ美しさで心を清める様なメロディだ。そして水本自身のオリ ジナル“サマー・ビーチ”は涼 しげな木陰と水のせせらぎを思い出させる曲。難しい節廻しもあるが、見事に演奏さ れた。しっとり、うっとり、心 が溶けたところで、一男が「カモン、ベイビー」とやって会場は爆笑の渦に。どんな バンドにも一人目立つ存在がい るが、ここでは一男がそうだ。

 どの曲も心が洗われる様なものばかりなのは水本の作曲家としてのセンスかとも思 うが、しかしそれだけでは重い 障害を持つメンバーが付いて行けない筈。時には情熱家の一男が興奮して音やリズム を大きく外すこともあるが、仲 間のプレイヤー達は互いの音を聞いて、調整しながら演奏する。普通のミュージシャ ンなら腹を立てるところを、こ のバンドはみんなが相手をすくい上げながら舞台が進行するのだ。きっとこれは、健 常者と障害者が心を合わせる所 に生まれる音色なのだろう。欲や野心を忘れた音、天使のハーモニーとはこういうも のかも知れないと私は思った。

 第二幕はバンドのメンバーを含む総勢26名で構成されるミュージカル・チーム 「LOVE」によるダンスと歌である 。ピアノの敏之、ドラムの滋、ミュージカルチームの柄谷昌一の3人がナレーター役 で、ユーモラスに進行を務める。 彼等は英語だけではなく、手話もできるのだ(私はできない)。ピアノ一台だけのシ ンプルな舞台にメンバーが出て きて「オー、マイ・ラブ」と歌い、踊りが始まる。特に後藤由里は踊り上手で、バレ エのような動きもできる。また 、橋本暁は素晴しく歌が旨い。顎を引いてしっかりと上体を保って歌い、声もよく 通って、節廻しや間の取り方もプ ロの歌手として十分通用すると思われた。

 驚いたのは、ダンサー達の動きそのものは稚くてシンプルだが、互いの目をしっか り見て、恥ずかしがらずに心を 表現していること。これは通常、日本人ダンサーには大変苦手なことなのだ。そして 彼等の動きには、ともすれば健 常者のダンサーが囚われる、自分を良く見せよう、美しく見せようという野心がな い。ただ無心に音楽に身をゆだね 、音楽を感じて踊っている。だからこそ、本当に踊る心が表現されている。

 出演者達はみんな底抜けに明るい。言葉が殆ど喋れない渡部幸彦をテーマにした 「ゆきひこ」では、彼を中心にみ んなが「ゆきひこ、ゆきひこ」と歌いながら踊る。踊りの途中で頭を掻いたり、首を 掻いたり、バランスを崩した隣 の子を支えたり、それぞれ忙しい。当の幸彦は嬉しい様な恥ずかしい様な様子だ。

 「人生には苦しい時もあります」と敏之が言うと、そのままピアノの前に座りドラ マチックな曲を弾き始めた。3人 の女性ダンサーの動きから、苦しくても手を取り合って行こうというメッセージが伝 わってくる。また、ナレーター 達が「人生で苦しいのは、仕事を無くした時。人生で悲しいのは、気持ちが解って貰 えないとき」と言うと、ダンサ ー達の踊りからは「神様、助けて」という声が聞こえそうだ。障害を抱えた彼等にこ んな表現ができるのは痛々しい 。

 チームはやがて観客に手を差し延べ、「オー、マイ・ラブ」と歌い始める。暁の素 晴しい歌声が堂々と会場に満ち て、観客はすっかり圧倒されてしまった。舞台の上では、歌いながら後ろに隠れてい る子の手をそっと引いて列に入 れたり、興奮して一人だけ列の後ろで踊っている姿も見られる。みんな自由に、みん な自分で居ながら、みんなで助 け合ってきたことが、一列に並んで歌うだけで伝わってくる。そして、そこには「心 を観客にあげる」という、パフ ォーミング・アーツの一番大切なものでありながら、多くの健常者の舞台人が忘れて いるものがあった。話せない幸 彦も列の後ろで手を差し延べ、大きな盛り上がりと共にこの曲は終わった。総立ちの 観客のブラボーの嵐の中で輝く メンバーの顔。そして、常に後ろにひっそりと控えていた健常者のミュージシャン達 の姿も眩しかった。

 最後に全員が会場の外に出て帰る人々の一人一人と握手をして来場のお礼を言っ た。それに返す観客の言葉も、「 サンキュー」「有難う」。私もいつまでも胸の中に流れ続ける美しい音のさざ波に酔 いつつ家路についた。人を認め ること、人を受け入れること、自分を与えること、これ程豊かなことを一つのステー ジで考えさせる舞台は他に例が なかった。



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